第1章 三角形 case1
目を固く閉じて全てを拒否するように首を振る。
耳には服を脱ぎ落としたような、布が落ちる音が聞こえた。
視覚がなくなると他の感覚が冴えるって本当だったんだ、なんて冷静に考えようとしている場合ではない。
ベッドが軋んで、その音と軽い揺れで京ちゃんが真横にいるだろう事が分かる。
「京ちゃん。こういうの、ちゃんと付き合ってからじゃないとダメだと思…う?」
勇気を出して目を開き、止めて貰えるよう声を出した私の目に映ったのは、ブレザーの上着だけ脱いで寝る体勢に入っている京ちゃんだった。
予想を裏切られて、思わず言葉の最後が疑問のように上擦ってしまう。
「いつも通り迎えに来たら先に行ってました、なんてオチは嫌で早めに来たんだけど。…眠い。遅刻しない時間に起こし…。」
京ちゃんは最後まで言い切る前に夢の世界に入っていった。
いや、いくらなんでも早すぎだし自業自得だよ。
眠いからって普通、異性のベッドで寝ようとなんてしないし。
突っ込み所は多々あれど、寝顔を見ていると起こす気にはなれない。
私の方は寝起きから驚きの連続で完全に目が覚めてしまった。
静かにベッドを降りて布団を京ちゃんにかけ直し、床に落ちているブレザーをハンガーにかける。
仕事で疲れた夫の世話をする新妻か、って感じの行動も京ちゃん相手なら自然と出来てしまう。
やっぱり幼馴染み感は、そう簡単に抜けないようだ。
携帯だけを持って起こさないように静かに部屋を出ていった。