第2章 ‐case1‐ending.
待っていても、返事がない。
声の聞こえない電話の向こう側からは、外に居るのか若干の風のような音だけがしていた。
緊張している中で聞く雑音は、それだけでイライラさせてくれる。
「黒尾さん!聞いてました?」
しびれを切らして、答えを急かした。
今まで、答えずに待たせ続けた私が数分程度で、こんな事をするなんて申し訳ない。
すぐに罪悪感が襲ってきたけど、それを気にしている間も無く。
玄関のチャイムの音が聞こえてきた。
同じ音が、電話からも。
信じられない。
だって、黒尾さんが家に戻っていたなら、こんな数分で来られる距離じゃない。
京ちゃんの家からだったら、これくらいの時間で来れるけど。
まさか。
『早く出て来い。』
思考を中断させる、強めの指示。
これで、今チャイムを鳴らしたのが黒尾さんだと確定した。
確かに眼を見て伝えたいと思ってた。
だけど、この展開は急過ぎる。
だからって、わざわざ来てくれているのに開けない訳にはいかず、玄関に急いだ。
開いた扉の先には、黒尾さんが立っていて。
「お姫様、デートのお誘いの返事、お届けに参りました。」
ふざけたように恭しいお辞儀をする。
「いや、あの?なんで?」
沢山聞きたい事があって、語尾に疑問符を付けた内容のない言葉ばかりを発していた。