第7章 個性把握テスト
持久走・上体起こし・長座体前屈…魔法を使い種目を次々にこなしていく。記録はいい方なので、除籍処分は免(まぬが)れるだろうけど…十中八九相澤先生の嘘だろう。
『(相澤先生からそんな“声”しなかったしね)』
それよりも気になるのは…
『(何故オールマイトがあんな所に隠れてるのかな?いや、隠れきれてないし…誰かを見てる?)』
ふと彼の視線の先へ目を向けると、モサモサ頭で頬にソバカスがある少年がボール投げをしようとしている所だった。
『(彼は入試で巨大ロボをぶっ飛ばしてた人。確か名前は…緑谷出久、だったかな)』
オールマイトの様子は彼の事を見守っている様にも見える。個人の事に首を突っ込むつもりはないけれど…
『(ちょっとぐらい聞いてもいいよね、バレてなければ)』
自分でもちょっとゲスいと思うが、気になるものは仕方ない。そういうお年頃なのだ。
こういう時にコブラの魔法は便利だ。滅竜魔導士の耳や鼻は常人よりとてもいいけれど、彼の聴力はそれを上回る。なんせ心の声まで聞こえるのだ。
『(緑谷君、かなり焦ってる)』
親からの応援、プロヒーローからの期待…彼はそれに応えようと必死になり過ぎている。見た所“個性”を制御できていないようだし、非常にまずい。
「でやぁ‼」
ピピッ
《46m》
「な…今確かに使おうって…」
『…“個性”を、消した』
ありなのか、そんな“個性”。だいぶ強いな相澤先生…私の魔法も消せるのだろうか。
緑谷君によると、彼のヒーロー名は抹消ヒーロー“イレイザーヘッド”というらしい。見ただけでその人の“個性”を消せるとは…彼が常に寝ているのも、“個性”の為に目を休ませているからだろうか。あのゴーグルも、目を保護する為の物なのだろう。
オールマイトからも、「仕事に差し支える」とメディアへの露出を嫌っているらしく、彼と気が合わないのだとか。…苦労してるな、オールマイト。
相澤先生が緑谷君に告げる。「お前の力じゃヒーローにはなれない」…確かに彼は“個性”を扱えきれていない。まるでつい最近目覚めたかのように見える。いやでも、“個性”が現れるのって4歳児辺りなんだよね?
それとも単に普段から使っていないだけなのか。
『(でも雄英に行くと決めたのなら、“個性”を常に使う事は百も承知だろうし…)』