第13章 迷い道
「ケータイ、ないって?」
「は、はい…」
「ロックもかけてなかったし、電話くんじゃね?」
車のなかで、るるはしょんぼりと項垂れていた。
「あー、最悪だー……帰ってからお魚見たかった……」
「それであんなに撮ってたのか」
「可愛くなかったですか?」
「…」
お前のがかわいかったよ、というのを飲み込む。
いつものクセで、車に乗った瞬間に火を付けてしまった。
「帰ったら可愛がってやるから、それで我慢しろ」
「えー?」
髪をまとめながら、るるは首を傾げてブーイングする。
発車させて少し、俺の携帯が震えた。
「ほらほら、どこにいるかわかんねえお前からの電話だ」
「やった!」
嬉しそうに一緒に音を聞く。
「もしもし、すいませんツレがそれ落としちまって…」
「もしもし…」
「!」
るるの顔が急に強ばる。
もしかして。
「あ?なんだ、及川かよ」
「なんだ、すぐわかっちゃった?」
「るるがな。
お前がそれ持ってんならもういいわ。
こっちで解約しとくから。勝手に捨ててくれ」
切ろうとすると、ちょっと待って、といつもの嫌みな口調で言われる。
「るる、聞こえる?」
「っ」
「ちゃんと、取りに来るよね?」
「行かなくていい」
「るる、来ないと…」
「繋心さん…公園で、降ろしてください…」
急に顔つきが変わると、震えた声でるるは呟いた。
「なんでお前が行く必要あんだよ」
「お願いします…降ろして…」
電話越しに嫌みな声が微かに聞こえる。
暗い空が不安を煽る。
「待ってるよ」
電話が切れると、車の中は静まり返った。
「繋心さん、先に、帰ってもらってもいいですか?」
「ふざけんなよ…」
るるの態度にイラつく。
みすみす危ない目に遭わせたくないというのに、自らその危険に一人で行かせるなんて到底出来ない。
るるが一番わかってることでもある。
「どうしても、言いたくないんです…」
「まだ俺を信用してないのか?」
「そういうことじゃ、ないんです。
とにかく聞かれるのが怖いんです…」
歯切れ悪くうつむくるるを見るとますますイライラする。
「勝手にしろ」
言われた場所に降ろすと、俺はさっさと一人で帰った。
なんでもっと頼ってくれないんだ。
また大人気もなく、アイツの考えをちゃんと聞かなかったことに腹が立つ。