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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第9章 ケータイとイルカ


「そういや、お前、ケータイは?」
「持ってないです」
出会ってから同じ家に住んでいるからあまり不便したことはなかったが、ふと気になった。
イマドキの子の必需品アイテムを、彼女が手にしているのを見たことがなかった。
「持ってないぃ?」
「徹さんが、持たせてくれなくて…」
…なるほど、連絡手段を減らすことで出口を塞いでいたということか。
と、無駄な感心をしてしまった。
今後の参考には……したくはない。

今日がいよいよデートの日。
行きの車でそんな話をしていた。
淡い色の薄手のワンピースから覗く白い脚は、いつもの制服とはまた違った良さがある。
私服もほとんど置いてきたというるるに、先日付き合って一緒に選んだ物だった。
いつもより少し濃い化粧は、実年齢をほとんど感じない。
相変わらず学生に似合わない雰囲気で、ゆったりと助手席でくつろいでいる。
「家とかにはどうやって連絡してたんだ?」
「え?公衆電話使えば良くないですか?」
「いや、昔より数減ってるだろ、探し回ってたのか?」
「んー、でも公園と学校と図書館にはありますよ?」
「なるほど…」
るるはそう言うと、何年も見てなかったテレホンカードを見せてきた。
「今は私もほとんど使ってないんですけどね」
にこっと嬉しそうに笑う。
「何年前の学生だよ……。
友達に連絡とかしないのか?」
「え?学校で会う人と連絡する必要ありますか?」
ごもっともだ。
目から鱗だ。
俺たちはなんで家に帰ってからも友達とメッセージやら電話やらメールやらをしていたのか…。
自分の感覚がおかしくなったのかと思った。
「待ち合わせに遅れたりする時は?」
「んー、待ち合わせをしたことがそんなにないかな?」
「んじゃ今日みたいに出掛けてはぐれたら?」
「出入口で待ち合わせしましょう」
「俺がうっかり先に帰っちまったら?」
「お店に電話すればよくないですか?」
「わかった、お前は十数年前からタイムスリップしてきた時をかけるJKだ!!」
名案といわんばかりに閃いた。
「ひどい!現代っこですー」
むくっと唇を尖らせて、生意気な小僧のようにそう言った。
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