第2章 Morning Kiss【至】
「…監督。いってらっしゃいのキス…」
「ああ、もう! 真澄くん!
早くしないと遅刻するよ!」
「じゃあなー、監督ちゃん」
「監督先生! 行ってくるッス~!」
いつもと同じ、騒がしい朝――。
バタバタと寮を出て行く皆を
玄関で見送るのが、私の日課だった。
『皆、気をつけてね。
いってらっしゃい!』
今日も 平和な一日になりますように、と
願い込めて、皆の背中に手を振る。
そして――。
「じゃ、俺も行ってきます」
一足 遅れてやって来た 最後の一人が
横を通り過ぎながら、私の頭を撫でる
その瞬間…
バクバクと鼓動が高鳴り
頬の熱が上がるのを感じた。
『あ、あのっ…。至さん…』
「ん? どうしたの?」
ベージュのスーツに身を包んだ
お仕事モードの至さん。
私の呼び掛けに
足を止め、振り返ると
不思議そうに首を傾げて
こちらをじっと見つめてくる。