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bond of violet【文豪ストレイドッグス】

第5章 明い光




「貴方の記憶が、見えたんです。」
「僕の…?…どういうことだ…!」


溢れる涙を拭い、彼女は手を離す。


「私は…」


一度唇を噛み締め、大きく息を吸う。


「私はポートマフィアの“存在しない魔女”。」


「存在…しない?」
「私のことなど、貴方は知らなくて…知っちゃ、駄目なんです。」
「へっ?何を」
「異能力、ロビンソン。」


彼女がもう一度触れると、彼はふっと目を閉じた。


彼から、彼女の存在は、消えた。


眠る彼に触れ、ロクサーナはまた涙を零した。


「なんで、見てしまったんだろう…。」

知れば、親しくなりたいと、彼の記憶に混ざりたいと、思ってしまうのに。


ロクサーナは、底抜けに優しかった。
底抜けに、人を想ってしまう。


ロクサーナの異能は、その人間の全てが見える。


出生。
家族。
友人。
大切な人。

そして、生きる理由。


触れた者の人生を、体感してしまうのだ。


ロクサーナはこれまで、数え切れない程の人生を辿った。その人生全てに、彼女は苦悩し、そして羨む。


「大丈夫貴方は、存在している。…存在している。」


扉が開き、光が満ちる。

もう、時間だった。仕事だった。

「……少しでも、私に出来ることを。」


「人虎を運び出せ。ロクサーナお前は、ここで待機だ。」
「はい。」


明かりの中で、彼の顔を初めて見た。
普通の少年は、静かに眠っている。

もう一度、彼に触れた。


暖かい笑顔が見える。

“武装探偵社”、だって。

きっとそこが、貴方の居場所なんだね。
きっとそこが、貴方が笑顔になれる場所なんだね。

大丈夫、きっとすぐ。
貴方なら。


ロクサーナは彼の記憶に、希望を残した。


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