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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


■Side――松野一松(7)

 …………

 月明かりが差し込む。今度は研究所の一室だ。
 不毛な片付けをして、空き室に松奈を連れ込んで一戦交えた。
 そんな甘いひとときのはずなのに。

「松奈……」

「ん……」

 ベッドで寝ている松奈は、また眉根を寄せている。
 俺が隣にいるのに、松奈はまたダンゴムシになっていた。
 俺は撫でてやろうと手を伸ばし、手を止める。

 今は『解凍』が怖い。
 撫でてやって、固いのが解けなかったら。

 きっと俺が緊張を与えているんだ。
 その事実を、直視するのが怖い。

 分かってるさ。俺が嫌いなんだろ。
 嫌われることしかしない俺が、嫌いなんだ。
 だから帰りたいんだ。
 俺が好きな演技をして、帰りたいんだ。

 分かってるよ。

 無理しなくていいよ。

 俺もそんなに好きなわけじゃないから。

 …………

「一松さん。宝くじをお持ちでしょう? 返して下さい」

「嫌だ」

 きっと嫌われている。
 俺が松野家の人間だから、演技で恋人のフリをされている。

 きっとそうだ。

 絶望的な思いで松奈に笑いかける。
「何で私の邪魔ばっかりするんです! 嫌いになりますよ!」
 最初から好いてなんかいないくせに。
「好きにすれば?」
 松奈は戸惑った顔をする。

 どうせ嫌われているのなら。
 とことん嫌われたいよね。

 俺は松奈のポケットから抜き取った紙片を出し、そして――。

「一松さん! ダメ……っ!!」
 
 紙片をびりびりに引き裂き、風に飛ばした。
 また嫌われちゃったなあ。

 愛している。
 どうか元の世界に帰らず、俺のそばにいて下さい。


 泣きたいくらい叫びたいのに、その言葉がどうしても出ない。

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