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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


■Side――松野一松(5)

 ……でも。

 まあホテルで一晩を過ごしちゃったんだけど……。


 だから絶対に嫌われた。

 初めての相手としては、最低ランクの中の最低ランク。
 半ば強引に関係を迫ったようなもの。
 向こうも俺の勢いに流されただけだ。
 正気に戻って、絶対に気持ち悪いと思われている。

 こんな冴えない容姿の無職のニート。誰が好意を持つ?
 自分が選ばれる理由が無い。

 だから、ホテルで過ごした後の二週間はつきまとわないようにした。
 大丈夫。二度と近づいたりしないから、安心して。

 好きな子に迷惑はかけない。
 それがクズ男の、せめてものプライドだ。

 …………

『私は一松さんが好きです。理由なんて知りませんよ』

 そして告白を、受けた。

 ありえない。絶対にありえない。あれはウソだ。
 だって何で自分。いったい、どこに惚れられる要素がある。

 考えられる理由があるとすれば、妥協。
 秀でているものが無い俺だから、卑屈に見える。
 きっと一番取り入りやすいと思ったんだろう。
 松奈はどうせ、元いた場所に帰る。

 でもウソにつきあってやるのも良いと思った。浮かれている馬鹿な自分がいた。

 松奈が帰るまで、遊んでやるのもいいと思った。

 ……思った。

 その余裕があっさり打ち砕かれた。
 あの馬鹿が妙な薬で猫になったときに。

 にゃー。

 子猫は、奴の服に潜り込んで鳴いていた。

 何 で ク ソ 松 に 懐 い た 、 ダ ン ゴ ネ コ ! !

 馬鹿馬鹿松奈。またあの詐欺師に近づいた挙げ句、勝手に子猫になって、今はクソ松の服に潜り込み、全力で喉をゴロゴロさせている。

「ほ、ほら、マイキティ。い、一松が待っているぞ」
 クソ松がダンゴネコを俺の方へ押しやろうとしているのを見て、ブチっと切れた。
「うるせえクソ松っ!! 馴れ馴れしく名前を呼んでんじゃねえよっ!!」
 ちゃぶ台をバンと叩く。

 クソ松は涙目でいい気味。
 だがダンゴネコも怯えて、クソ松の服にもっと潜り込む。分かってたよ。

 可愛がってくれるなら、誰でもいいんだ。こいつは。

 心が黒く染まる。ああ、分かっていたよ。

 俺一人が、好かれているわけじゃなかったんだ。

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