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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い



 そもそも、最初の時点でキッパリ断っていれば良かったのに。
 やるべきことが分かってるはずなのに、押されて全然何も進まない。
 バイトにしても片付けにしても、もっと要領良くやれていればなあ。

 本当に私ときたら頭が悪くて、よく考えないから、いつも良いように使われる。

 いつも軽く見られ、馬鹿にされ、殴られ、バイト代を全て取り上げられ、家事雑用を全て押しつけられ――。

 ……え?

 何で自然にそんな考えが出てきた?

 博士と助手は、悪人というか、もうああいうキャラと割り切るしかない。
 何だかんだで私のために動いてくれてるし、不始末の責任はちゃんと取ってくれる人たちだ。

 松野家だって良い人しかいない。下ネタトークをかまされたり、からかわれはしても、迫害はされてない。
 家事雑用だって手伝い程度。それだって、お母様からもっと遊べと怒られてる。
 もちろんバイト代を取り上げられたことなんて一度たりとも無い。

 とすれば、いったい誰が私をひどく扱うの?

 もしかして元の世界で、私は――。

 ……考えないようにしよう。
 
「うわ、軍手が破れたし! まあ、無くてもいいですか」
 さすが、少ない小銭で買った安い軍手だ。器材に引っかかって切れてしまった。
 ポイッと軍手をゴミ袋に入れ、作業に戻る。
「よし。あとはこの器材を棚の上に戻せば――」
 うわ、重い。段ボールをもってよろけそうになる。
 だけどこれさえ載せればこのスペースは完了だ。
 私はよろよろと脚立(きゃたつ)に上り、棚の上に段ボールを載せようと……高い。

 もう少し背を伸ばさないと。

 あとちょっと……。もう少し。

「あ」

 軍手をしてなかったせいで、ちょっと手が滑った。

 スローモーションのように器材が入った段ボールが私の上に落ちてくる。

 反射的にそれを避けようとして、身体を動かしたら脚立が――。

 …………

 …………

「松奈、松奈……!! 松奈っ!!」

 誰かが名前を呼んでいる。
 ゆっくりと意識が浮上すると、暗闇だった。
 ん? ここはどこ?

「しっかりして!! 俺が見える!? ちゃんと見えてる!?
 視界がぼやけたり物が二重に見えたりしてない!?
 めまいとか吐き気とか大丈夫!?」

 いや、そうポンポン言わないで下さいな。

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