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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


 プリクラには入らず背を向けた。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。もう夕方だし」
 奴は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「い、いいの?」
「何がです?」
「いや別にっ」
 敵の腕に手を絡ませ、ゲーセンを出た。


 空はすっかりあかね色の雲だ。
「川辺を歩いて帰りましょうか」
「ああ」 
 風が少し冷たい川縁には、人の気配はほとんど無い。
 せせらぎは穏やかで、水面に映る夕日がキラキラしている。

「誰もいない場所って落ち着きますよね」
「そうだね。一人だと気楽だし」
 矛盾したことを言い、少し笑いあう。
 それから何となく二人で草むらに座る。
「はい、一松さん」
「ん」
 ゲーセンで確保した駄菓子を渡し、二人で食べる。
 遠くでカラスが鳴いている。一松さんの身体にもたれ、しばらく空を眺めた。
 するとそんな私を見ていた一松さんが、

「あ、あのさ。やっぱりさっきのゲーセンに戻って……」
「え? 何が忘れ物でもされたんですか?」
「……やっぱり。何でもない」
 何なの。よく分からん。

 河川にかかる鉄橋の上をガタンゴトンと音を立て、鉄道が走っていった。
 そしてどれくらい寄り添っていたのか、沈む夕日を眺めながら一松さんが言った。

「ねえ」
「はい?」

「いつまで、うちにいてくれるの?」

「…………」
「答えろよ」

 口調が少し乱暴になる。色々迷い、答えることにした。
 いついなくなられるか分からない方が嫌だろう。

「あと、××日ほどです」
「うちを出て、家に帰るの?」
「そうです」
 また沈黙があり、

「帰った後、またこっちに来られる?」

「……。無理です」

「っ!」
 一松さんのダルそうな目が見開かれる。立ち上がり、こちらを見下ろしてくる。
 その目には悲哀ではなく憎悪。

「何でだよ! 何で帰るの!! どうしてもう会えないの!」

「それは……色々事情が……」

「事情って何だよ!! やっぱり嫌なわけ? 俺が彼氏だってのが!
 別に否定しなくていいよ!! 分かってるしっ!!
 こんな無職でクズでニートな男、一緒にいても未来がないからねっ!!」

「いえその。私が帰るのと、あなたがダメ人間なのは全く別の話なんですよ」

「……否定」

 だから否定してほしいのなら、改善努力をして下さいって。

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