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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い



 一松さんは私の手首をつかみ、自分の方に引き寄せ、ニヤリ。
「で、してくれんの? SE○――」
 一松さんを無言で蹴り倒し、

「同じ顔が六人なんて、毎度数えてられませんよ! 一人リストラして下さい!!」

『よしきたっ!!』

 と一斉に一松さんに飛びかかる五人。
 ドッスンバッタンと二階は大騒ぎ。

 私はやれやれ、とちゃぶ台のせんべいをかじりつつ、窓の外を眺める。
 さっきの反応からすると、そこまで嫌われてない感じで良かったけど。
 やっぱり、ちょっと慣れてきたのかな。
 一松さんだって自分の時間を過ごす権利がある。たまには兄弟と遊びたいよね。
 ……出来ればギャンブルではなく、もっと健全な遊びをしてほしいんだけど。

 ――い、いやそうじゃない!!
 我に返る。私には、恋のあれこれで悩んでる余裕なんて無い!!

 三百万だ! 仕事を探さないとっ!!

 あと一ヶ月半で三百万を貯めないと、元の世界に帰れないんですよ!!

「じゃ、私はバイト探しに行ってまいります!!」
 ドタドタと廊下を走る。

「え。いやちょっと。さっきの前フリは何だったの――」
 ズタボロになりつつある一松さんが、ヨロヨロと手を伸ばしてくるが、すぐにケンカに引き戻され、チェリー五人の鉄拳を食らい続けるのであった。

 ざまぁ――ゴホンゴホン!!

 ニートと違って私には明日がある。頑張るぞー!!
 
 …………

「うーん。さすがに一ヶ月半で三百万稼げるバイトなんて無いかあ」
 公園のベンチで、無料求人誌をめくりながらうなる。

 うう、一松さんと過ごしているうちに、どんどん日にちが経っていく。
 残り90日なら、一日で三万三千円は稼がねばならない計算になる。
 でも午前中は松野家の家事。お世話になってる身として欠かせない。
 夜遅い仕事も無理。お母様が許可して下さらない。
 使えるのは午後の何時間か。

 そんなバイト以下の自由時間で、一日三万円とか、どんな裏稼業だっ!!

 松野家の人たちには、何があっても迷惑をかけられないというのに。
「何かもう何もかもダメです……」
 私は勤労意欲を無くし、トボトボと松野家への道を戻る。

 この世界に永住? だから無理ですって。

 お忘れかもしれないが、私は記憶喪失。

 だからこそ、元の世界に残した家族のことが気がかりなのだ。

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