• テキストサイズ

【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】

第3章 審神者になった白い鬼



これは緋雨が審神者になることを決めた時のお話です。








「おや、人間がやってくるなど珍しいことだ」


 西暦2205年、もはや末端の地方でも滅多に見ることのなくなった緑木の茂る山に、ひっそりと佇むみすぼらしい庵。そこに棲む白い鬼神は、久方ぶりの来訪者に赤白の双瞳を細めた。


「この死に損ないに何の御用かな」


 床に上がり、深々と頭を垂れるのは見紛いようもなく三人の人間だ。手指から足の先まで黒い洋服に身を包み、顔を複雑な紋章の浮いた白布で隠してはいるものの、身体的特徴から彼らが人という生き物であるということに間違いはない。しかし三人が全く同時に顔を上げる、その一糸乱れぬ動きはとても人間のそれとは思えないほど機械的だった。


「お初にお目にかかります、『刀人』緋雨様。私どもは『第二世界区・ニホン州』総督府防衛省時空監視局歴史変改特別対策課の2等級役員でございます」


 彼の向かいに並んで正座している三人のうち、真ん中の一人が口を開く。抑揚のない平坦な声はどうやら女のものであるようだった。


 当たり前のごとく使われた『刀人』という言葉は、数十年前から鬼神の属する種族を示している呼称だ。かつては漢字の配置が逆で『人刀』と呼ばれていたが、限られた人間にしか見えない故、無いものという共通認識をされてきた神や妖怪の存在が社会的に認められ、またそれらと人間の混血種も珍しくなくなった昨今、人型の兵器のような印象を与え差別を助長しかねないということで『刀人』と改められたらしい。しかしそのような呼称の変化など、俗世を離れた鬼神にとっては全く興味の外のことだった。


「名は何というのかな」

「それはお答えしかねます。我々の個人情報は総督府の下、コードにより厳重に管制されておりますので」

「……そうか」


 やたら丁寧である一方で何の感情も含まれない返答に、鬼神は寂しげに微笑んだ。自嘲の笑みだ。義務としてここを訪問したに違いない者らに名を聞くなんて。人間がこんな辺境にわざわざ訪ねに来ることなど滅多にないから、自分でも知らない内に舞い上がってしまっていたのか。


 最近では、人間は自らの名を誰かに教えることも、顔を見せることすらもしないと知っていたのに。それでもやはり人間と関わることに喜びと安らぎを感じずにはいられない自分に自分で呆れてしまう。


/ 40ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp