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【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】

第2章 神の初期刀・後編(加州清光、大和守安定編)



 緋雨の白魚にも勝る滑らかな腕が、安定の後頭部にふわりと添えられる。そのままその白い衣を纏った肩の上へ、安定の頭を優しく導いていった。

 なすがままにされながら安定は、自分にとってはこれが緋雨に触れる初めての機会だったかもしれない、とぼんやり思った。避けていたわけではなかったのだけれど、自らの性格上清光や短刀たちのように無邪気に振る舞えない分、身体的にふれあう機会を逃していたことは否めない。


 緋雨の身体は布越しにも分かるほどひんやりと冷たく、元が刀であるが故に体温が低くなりがちな自分たちのそれを想起させるものだった。

 けれど押しつけた鼻先からは、男所帯の刀剣たちからはけしてし得ない、森の木々が放つような清廉な匂いが香ってきて、呼吸をする度に肺の底まで洗われていくようだった。


「すまないな。本当に」


 吐息と共に頭上から降ってきた声は、襖の傍で会話していた時よりもずっと繊細で、透き通っていて、温かかった。そうやって神妙に謝られると泣きたくもないのにまた涙腺が勝手に緩んでしまって、緋雨の衣を眼前にして真白かった視界が透明に滲んだ。今度はさすがにこらえきれなくて、溢れこぼれた涙がほろほろと頬の上を転がっていく。


 哀しい人。哀しい人。あなたに巣くう苦しみを溶かすことは本当に出来ないのだろうか。無力で拙い自分たちが出来ることはあまりにも少なくて、情けなくてやるせなくて胸が押し潰されそうになる。


(主に昔会ったときのこと、思い出せたらな。そうしたら、こんな風に謝らせてしまうことも、なかったかも知れないのに)


 そう切に願っても、振り返る記憶の中にはやはり緋雨の姿は居なくて、それがどうしようもなく哀しく、安定は途方もなくこぼれる涙を緋雨の衣に吸わせながら静かに泣き続けた。


 緋雨はその涙が止むまで、白い舟のごとく空に浮かぶ半月を眺めながら、いつまでも安定の頭を優しく撫で続けていた。





神の初期刀・終


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