第1章 真っ白な世界で
これでいいんだ。
これでアイツは助かる。
だったら、アイツのためなら…。
ここはどこだろう。
どこまでも真っ白な世界。
目に入るもの全てが白で上下左右なにがどうなってるのか全くわからなくなる。
私もここでこの世界の色に染まって何者でもなくなってしまうのか。
まぁそれならそれでも別にいいか。
すでに自分が何者かわからないんだし…。
「ここは…。」
「はっじめまして~!君が新入りちゃんだね!」
どこかわからない場所にいるうえに得体の知れない男に声を掛けられるなんて不運にもほどかある。
声を掛けてきた男は私と同じぐらいか少し年上に見える。
目鼻立ちは整っているので一般的に言〝イケメン〟なのだろうがだらしない顔でわらっているから〝残念なイケメン〟だ。
「えっと…誰ですか…あなた?」
「う〜ん?人に名前を聞くときは、まずは自分からってならわなかった?」
そう言いながら男は手を伸ばせば触れるぐらいの距離まで近づいてくる。
「失礼しました!私の名前は…名、前は…」
あれ…?私の名前は?そもそも私って何?なんでこんなところにいるの?
私がそんな事を考え何も言えないでいると男がくちを開いた。
「うん…?あ~!君、名前忘れちゃったの?」
男はオーバーリアクションで言った。
「はい…」
「それは大変だ〜!」
人が困ってると言うのにこの男はとても楽しそうに笑っている。
なんなんだコイツ…
「じゃあさ!じゃあさ!俺が君に名前つけてあげる!いや〜名案!名案〜♪」
「いや…あの…えっ?」
楽しそうにどんな名前にしようかな〜とたいして深く考えてなさそうにしている男を見るととても不安になる。
変な名前つけられたらどうしよう…。
「決まった!〝ウタ〟。君の名前はウタ。かわいいでしょ〜♪」
自信満々にそう言う男は続けて「良い名前をつけてあげた俺を尊敬してくれてもいいんだよ〜♪」などと言っている。
やな予感が的中した事を恨めしく思う。
「あの…ウタって…なんかもっとこう…良い名前があったのでは?」
「え〜?良い名前でしょ〜?」
私の発言に男は不満げな顔をした。
その顔をしたいのはコッチなのだが…。
表情を変えずに話を進める。
「そう言うあなたはなんて名前なんですか?」