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小話【気象系BL短編集】

第17章 幕引きすらうまくいかない




ドアを開けても、一歩ずつ近づいても、アナタはまるで気付かない。
不謹慎なんだろうけど。良しかれ悪しかれ、チャンスだと思えてしまった。
好機ではないのは確かで、けど縋らずにはいられない。

棒立ちで泣きじゃくるアナタの肩をたたいて。
振り向くタイミングに合わせ、背伸びをして顔を近付けて。

そっと、唇を重ねる。

触れるかどうか、そんな曖昧なもの。冗談にしようと思えば出来なくもないモノ。



「っ……なに!?ニノ?」



戸惑った顔を見たくなくて、半ば強引に引き寄せた。
胸の辺りに凭れさせて、背中を撫でさする。何でもないよって。
俺よりも大きくて、強くて優しくて。どこか儚げで、俺の好きなひと。
好きなひとに振られ、傷心の、俺の好きなひと。

ごめんなさいね。だって、俺、ホントに好きだもの。

上手くいかなくたってイイ。
ほんの少しだけ、アナタの気持ちが欲しい。
俺のこと考えて、迷ったり惑ったりするのを見たいだけ。
満足なんてしないけど、落としどころには出来るから。また元に戻るから。

顎を軽くすくって、顔にかかる髪を指ではらう。
相葉さんの潤んだ瞳から、ちょうど滴が伝うところだった。

こんな綺麗なひとを、今から傷付けるんだ。

そう思ったら、何故だか笑えてしまうんだから、やっぱ俺ってアレかな。


「相葉さん。すぐじゃなくて良いから、ちょっとだけ俺のこと意識して?」

「に、の?………どうして、そんなこと言うの」

「俺にしなよってコト」

くしゃりと歪む表情に、終わりを知る。まざまざと、思い知った。
だけれど、この充足感は何だろう?
今、この瞬間。このひとが、俺でいっぱいになったという感覚は。

くだらないけど、いい。この自惚れだけで、もう、いいや。

「………冗談よ、冗談」

茶化すように笑って、相葉さんと距離を取った。
すぐさま踵を返し、振り返らずにドアを閉め、走り出す。






*****







形振り構わず走る最中、何かが壊れる音を聞いた。
どこか遠くから聞こえたソレが、気のせいだったら良いのに。
ついさっきまでのことが全て幻だったら良いのに。
見事なまでの自業自得だけど、それでも願わずにはいられなかった。

全部、遅いけれど。
何もかも、手遅れなんだけどねぇ。




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