第6章 年の瀬、花屋の二階で
牡蠣殻は波平の妻で、一平は二人の子供。伊草は二人の伯父という表向き。不在がちな波平の代わりに磯を動かす巧者の牡蠣殻が病みついたので、磯は今里ごと木の葉に世話になっているのだという。そうなんだという。そういうことらしい。一体何の話だ、これは。
気の向かないことには全く頭が回らず、立ち回りの上手い訳でもない牡蠣殻に、こうした筋立ては大層入り辛い。大体妻や母親を演じるなど牡蠣殻に上手く出来よう筈もない。だからあまり里人と接触したくはないのだが、一帯に木の葉の者は人懐こく物怖じしない。出掛ければこうして声をかけられる。殊にシカマルやリー、ヒナタら先に接触のあった若い忍を通してアカデミー関係の子らに捕まることが多い。
「具合が悪いのか」
両の手を外套の隠しに突っ込んだシノが牡蠣殻をじっと観察しながら尋ねた。
「病みついた者が回復期にリハビリを兼ねて散歩するのは良いことだが、何事も度を越すとまた変調を来す羽目になる。特に弱った体は地道な積み重ねで快復するしかない。無理をすれば反って体を損ねる。何故ならば病は宿主の無理を止め、宿主を守る為に発するものでもあるからだ。だから快復は無理を何より嫌う」
ちょっと上体を引いて改めて牡蠣殻の顔を見、シノは眉を顰めた。
「見たところ顔が優れない」
「……」
一瞬時が止まって、見合うシノと牡蠣殻以外の全員が顔を見合わせる。
「あー。それは大変ですね…」
牡蠣殻が首を捻ってうっすら笑った。シノは眉間の皺を深める。
「他人事のように受け流すのは良くない。自分の話だぞ」
「いや、わかっていますよ。だから困ってるんですよ」
牡蠣殻は首を逆に傾げてシノに尋ねた。
「それは養生すれば良くなるものなんですかね?」
「なる。少なくとも今よりは良くなるだろう」
力強いシノの返答にキバが笑い出し、ヒナタは気まずそうにシノの袖を引いた。
「シノ…。それ、顔色の話よね…?」
「他に何の話をしたというのだ」
揺るぎなく顎を引いて更に力強く言ったシノに、ヒナタの方が赤くなる。
「シノ…。…あのね…。ちょっと行き違いと言うか、言い違いがあったかなって思うんだけど…」
「バッカ、シノ、オメー顔って言ってたぞ。か・お。養生して面が良くなんなら世話ねえわ。だはは!」
キバが腹を抱えるのを見、シノは暫し考え込んだ。
「……」