第2章 砂
カンクロウは溜め息を吐いて一平を抱き直した。
「で?牡蠣殻は?ちゃんと捕まえたワケ?」
「一足先に木の葉へ行っていますよ」
手を伸ばして眼鏡に触れようとする一平を興味深そうに眺めて波平が答える。
「連れて寄りゃ良かったもんを。ワシらもあいつにちょっと話があるんじゃがな」
エビゾウが言うのに、波平は首を振った。
「迎えに行ったその場にも磯辺に話がある人がいましてね。話し終わって戻って来たのはその人だけで、磯辺はサッサと失せてしまったようです」
「何じゃソレは。呑気にしとるが大丈夫なのか。またどっかに逃げたりしとらんじゃろうな」
チヨバアが顰め面する。波平は一平の小さな手に自分の人差し指を握らせて弛く上下に振りながら頷いた。
「他の事は兎も角、深水先生の忘れ形見を放置して消える磯辺ではありませんよ。あれは兎角師に弱い。生きていたときも亡くなってからも。まるで雛の刷り込みですよ」
「洗脳じゃな」
「洗脳じゃ」
「フルメタルジャケットか?」
「時計仕掛けのオレンジじゃな」
「ファイトクラブ」
「ドニーダーコ」
「ちょっと違わんか?」
「違うかの?」
「…隠居部屋で薄暗い映画ばっか観てんじゃねぇじゃん。不健全な…」
「何を。ハリーポッターも観たんじゃぞ」
「チヨバアはシリウス推しなんじゃ」
「指輪物語も観たわい」
「チヨバアはゴラム推しなんじゃ」
「そうそう"いとしいしと"っつって…て、誰がゴラム推しか!わしゃ面食いじゃ!」
「でもよう似とるぞ、ゴラムとチヨバア…」
「何を!?」
「あのさ。どーでもいいから。もーいいから。二人揃ってゴラムでいいじゃん。指輪でも首輪でも鼻輪でも何かそこら辺の映画に出たらいいじゃん。双子のクリーチャーっつって一世を風靡したらいいじゃん。兎に角仲良く黙ってくんねえか。話が全然進まねえじゃん」
「海士仁は何処です」
途中から全く我関せずで一平の小さな手を興味深く仔細に眺めていた波平が、不意に話を切った。
「まさか私を待たずに失せましたか」
「あれなら我愛羅のとこにおる」
チヨバアが難しい顔で答えた。
「何せ荒浜はビンゴブッカーだからの。国境沿いの山賊殺しもあれの仕業と言えなかない。本当にここに連れて来て良かったのか?」
「自分から行くと言い出したのです。是非もありません」