【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第1章 罪の子
死にたいと思っていた。
それは、感傷とか、甘えとか、そういう類のものではなく、ただ純粋に、真面目に、前向きに、がむしゃらに、それは俺の願いだった。一等星のようにきらきらひかる、美しい目標だった。
だって、俺がすべて悪いから。
俺がいなければ、こんなことにはならなかったはずだから。
終わってしまった。ここから先はない。俺はもうどこにも行けない。それならもう、希望は死以外の形をとらない。恨みも哀しみもない。ただ底の見えないまっくらな穴が、足元に口を開いて俺を呼んでる。あとは前に一歩足を踏み出して、暗い暗い穴の底めがけて、飛び込むだけだった。
そのはずだったんだ。
「痛かったな。苦しかったな。でも、もう大丈夫だ」
誰かが俺に話しかけている。優しい声だ。こんな風に語りかけられたのなんて、いつぶりだろう。
俺は声のする方を見上げた。崩れた研究所の外壁から柔らかく差し込む太陽の光。それを背に受けて、白い服をまとった、白髪の男が立っている。夥しい量の血でべったりと全身を濡らしながら、それでも凛と背筋をのばして立つそのひとに、俺は今まで信じてもいなかった神様の存在を思った。
「俺と来い。生きたいんだろう」
男はそう言って、血に塗れた手をさしのべた。その言葉を聞いて、理解して、それでやっと、俺は自分が生きたかったのだということを知った。滅茶苦茶に傷つけられて、孤独と罪悪感に苛まれたまま死ぬために、今日まで生きてきたわけじゃなかったんだと。
俺がすべての元凶だ。
俺がいなければこんなことにはならなかった。
でも、それでも、生きることを許してもらえるのなら。
俺は生きたい。本当はずっとそうだった。
どれだけ苦しくても、つらくても、生きたい。
生きて、この罪を償いたい。
血で浸されたリノリウムの床。原型をとどめないたくさんの死体に囲まれながら、おそるおそる握った救いの手は、死んでいるみたいに冷たい。男が笑った。泣いているみたいな顔だと思った。
国内随一の犯罪者、前代未聞の凶悪殺人犯は。
たったひとりの、俺のヒーローだった。