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おかえり〜I'm home〜(R18)

第8章 summer memory③





《summer memory③》



その日、雨が止んでも、及川さんが帰ってくることは無かった。

その日だけじゃない。

明くる日の月曜日も・・・火曜日も・・・その次の日も、どれだけ仕事を早く切り上げて帰ってきても、家の中に彼の姿を見つけることは出来なかった・・・。

叔母さんには、事情を話した。流石に襲われたなんて言えなかったけれど、手紙を渡した女の人のことを話すと、そう、と悲しそうに目を伏せた。

気づけば、及川さんが帰ってこなくなって5日・・・
週末になろうとしていた・・・


(どこ・・・行っちゃったんだろう・・・)


スマホに電話をかけても、無視。

大の大人だし、危ない目には、多分あってないだろうとは思うけれど・・・。心配なのは、変わらなかった・・・。


「はぁ・・・・・・」

会社の屋上でひとり、食欲もないけれどコンビニでサラダを買って食べている私は、もう、何回目かも忘れたため息をつく。

(及川さん・・・、元気かな・・・)

答えの出ない心配事が頭をぐるぐると巡っている。

サラダを掴む、箸を持つ手・・・その手首はあの夜、及川さんにきつく掴まれていたのか、アザになっていたのを後から発見した。

手首だけじゃない。このブラウスの下には、沢山の、彼が触れた痕がまだ微かに残っている。

鏡に映ったそれを見るたび、焦げ付きそうな羞恥心と、
あの後、彼を追いかけられなかった自分に対する嫌悪感に襲われていた・・・。


"お前には関係ない・・・"
"踏み込んでこない方がいい・・・"
"関わらないでほしい・・・"

彼はそう言って私を遠ざけたけれど、それで、及川さん自身は救われてるの・・・?

今もあんな顔して、どこかにいるの・・・?

誰より近くにいた・・・。いたと思っていた。

だけど私どうして・・・
どうして彼の哀しみに気づいてあげられなかったんだろう。

何に哀しんでいるのかもわからない。
二人の距離は近づいていたはずなのに、心は1ミリも近づいていなかったことが、悔しくてたまらない・・・


じわっと涙が溢れる。


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