第6章 ―参謀のマル秘ストーカー帳―
「柳君……」
私の後ろに立っていたのはデータテニスをする柳蓮二だった。糸目なので、開けているか閉じているか分からない目をこちらに向けている。
片手には『マル秘ノート』と書かれた一冊のノートを持っている。
マル秘……だと?
「お前は確か新聞部部長の瀬崎美琴か」
「え、何で知ってるの?」
「俺はデータを集めてテニスをするからな。日常のデータも収集する必要があるからだ」
それってストーカーじゃないっすか。私も人のこと言えないけど。
「それってストーカーじゃないか、とお前が思う確率98%」
「思考回路駄々漏れ!?」
恐るべしデータマン柳蓮二……!
「ところで柳君。そのノートはもしかしてもしかすると……」
「これか?様々な奴のデータを書いたノートだが」
なにそれ超見たい!!
「ちょ……それ詳しく教えて!」
「なんだ、興味があるのか?」
「うんうん!超ある!」
すると柳がしょうがないといった表情でペラペラとページを捲る。もちろん無表情のままだが。
「瀬崎美琴」
「は?」
「3年新聞部部長で、最近では俺ら男子テニス部レギュラー陣の本性を調査し、ファンを幻滅させてレギュラー陣に一泡吹かせようという目論見を企んでいる……と。このくらいか?」
「あ、あのー……」
やばい。私今尋常なく毛穴から汗が吹き出てる……。
てか一番知られちゃいけない情報が敵のテニス部に知られてるじゃないか!
「あと、これは極秘情報なんだが……」
「…………」
「瀬崎美琴のスリーサイズは上から、」
「ぎゃあああああ!!」
最も知られたくない情報が柳の口から躊躇なく出ようとしたので、私は自分が女であることを忘れ奇声を発した。
なんでお前が私のスリーサイズ知っとんねん!びっくりしすぎて関西人でもないのに思わず関西弁になったじゃんか!
「そしてお前は、何でお前が私のスリーサイズ知ってるんだ、と心の中で思う確率100%」
「やかましいわ!もういい!私は私のやり方であんた達の本性を暴いてみせるからね!覚えてなさいよ!」
そして私は踵を返して教室へと去っていった。
「ま、頑張れよ」
柳には結果は見えているようで、呟いた言葉は去っていった背中を嘲笑うかのように空気となって消えた。
結論、柳蓮二は極度のストーカー男だった。