第6章 奪ってもいいか
「…あー、あんま可愛い反応すんのやめて。これから同じ宿舎なのに手も出せないんだからさぁ」
「…天童くんのバカ」
俯いた私の顔を覗き込んできて囁かれたもんだから、私は両手で顔を覆う。こんなに人が多い場所でサラっとこんな事言うから天童くんには敵わない。
「…へえええ。緑川さんと天童くんって本当ラブラブなんだね。バレー部公式カップル特集!なんてのもいいかもしれない」
フンフンとペンを走らせる成田さんが目に入って思わず「やめて!」と声を上げる。学園新聞に載るなんて冗談じゃない。リカコはリカコで「離れろゲス野郎!」と天童くんのお尻に蹴りを入れていた。
「…いってぇ。諸越ちゃん安心してヨ。食堂も風呂も練習メニューも男女で全部時間ズラされてるらしいから」
「そりゃそうだろ」
じゃあ牛島ともそんなに顔を合わすこともないか。あれ以来牛島のことは完全に避けているから本当に気まずい。天童くんは何も言わないけれど察してくれているようで、何気なく牛島とは会わないように気を付けてくれている。
「なつみちゃんじゃあネ。また向こうで」
天童くんは颯爽と男バレのバスに乗り込んでしまった。結局バス酔いを心配してくれてただけ…?
「…天童のやつ、合宿前にちゃんと牽制しにくるとか彼氏ヅラじゃん」
「はは…天童くんに限ってそれはないよ」
「ほぼ男女バレー部員全員揃ってるここであんなに堂々とイチャイチャしに来て、牽制以外の何?」
「まあ、実際のところやっぱり男女合同合宿だと盛り上がっちゃうもんねぇ。手出されたくないから天童くんも必死ね」
リカコも高岡さんも牽制牽制って言うけど、天童くんの動きに基本意味はない。それに牽制してもらうほどモテ女子でもないし。
「…どんな堅物だって、合宿中は気が緩んじゃうかもってこと」
「え?」
「私も彼氏欲しいなー!」
リカコにしては意味深な言葉で柄にもなくどうしちゃったんだろう。そういえばリカコの気になってる男バレ部員は誰なんだろう。同じ一年生っぽいけど。この合宿中になんとか聞き出そうと私は決意した。
…無事に合宿強化メニューを乗り切れたらの話だけどね。