第5章 女子バレー部次期エース・諸越リカコが想うこと。
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「…さとり、もっと」
「……これ以上は駄目。止まんなくなっちゃうからネ」
…偶然だった。本当に偶然だったんだ。明日小テストだというのに教科書を机に入れっぱなしにしていて、鷲匠先生の目を盗み自分の教室に取りにきたところ、なつみが他のクラスの教室に入っていくのを見かけた。一緒に体育館に戻ろうと思ってそのクラスまで行ったところ、二人はなんだか激しくいい感じにくっついていた。
おいおいおいおいおいおい。これはマズくないか?っていうか牛島!!!お前がしっかりしてないからこんな事にっ…!!!
なつみは私が見たこともないトロンとした顔で天童に体重を預けていた。天童も天童で見たこともない優しい顔してなつみの口元を拭っていた。まあ、それでなつみが幸せっつーんなら別にいいんだけどさ。アンタは絶対牛島が好きなはずじゃん。絶対。
中等部からの腐れ縁で贔屓目するわけじゃないけど、牛島はいい奴だと思ってる。ちょっと生真面目で頭固いところは嫌いだけど。だから牛島の片思い、ちょっとは応援してたつもりなんだよ。これでもね。
なつみは昔からコンディションにムラがある。それは女バレ部員ならみんな理解してる。それでも本番に強いタイプなのか、試合当日にはバシっと最高の状態を持ってくるんだ。あれはある意味才能だと思っている。
だから…なつみは急に弱気になることもある。初めて牛島への恋心を自覚したのと同時に、学園のスターと付き合う意味を考えてしまったんだろう。流されやすい性格だし、天童の好意に甘えてしまうのもわからなくはない。
「…でも教室は良くねーよな」
「…!?」
なつみと天童からは見えない廊下の角に移動して、たったいま目撃した衝撃映像を反芻しながら過去の思い出に浸っていたところ、急に話しかけられ心臓が止まりそうになる。しかも相手は瀬見英太だ。
「…あんたも見てたわけ?」
「天童が教室行くの見えたからさ、なんとなく行ったら…ね」
はあーっと盛大な溜め息を漏らす瀬見。そりゃそうだろう。この男もなつみが好きなのだから。
「マジに付き合うなんて思わねーじゃん」
「…そりゃ天童だしね。本気なんて誰も思わないよ」