第4章 利害
インターハイの選抜に選ばれなかったのはもう仕方ない。だったら今できることを精一杯やって、春高に向けて前に進むしかない。そんなことを考えながらスパイク練習していたら力が入りすぎたみたいで、手のひらが真っ赤でジンジンと痛む。
「あーあー。頑張りすぎちゃったネ」
帰り道、天童くんと一緒にコンビニに寄っていた。彼はソーダ味のアイスを買ってバリバリと齧っている。
「うん、なんか悔しくって」
「俺もだヨー。強豪に入るっつーのも大変だよネ」
はい、って天童くんが食べかけのアイスを差し出してくる。こういう友達感覚で付き合える天童くんとの距離感が本当に心地いい。やっぱり牛島と付き合ってたら引け目を感じずにはいられないから。差し出されたアイスを一口齧る。
「…っあー。それで上目遣いしてくれる?」
「ばか!」
二人で交互にアイスを食べながら帰り道を歩いていく。バス停までは歩いて15分くらい。天童くんは私がバスに乗るのを見送ってから寮に帰っていく。走れば5分くらいだろうか。
「…なつみちゃんは俺の名前なかなか呼んでくれないネ」
「あ、いや、呼びたくないとかじゃなくて。なんか照れちゃって」
「今はいいよ。でもさ、俺がもし一年のうちにレギュラーに入ったらご褒美くれる?」
「私にできることなら」
「よっしゃ!俺頑張っちゃうもんネ」
天童くんがすごく上機嫌になった。普段から割と笑顔な彼だけど、最近本当に機嫌がいい時と、それほど良くない時が分かるようになってきた。これがカレカノというやつなのだろうか。バス停に着いたところでちょうどバスも来た。
「…なつみちゃん。俺、若利クンの代わりになれてるかな」
「え、」
「また明日ね」
バスの扉が閉まる直前、天童くんから飛んできた言葉は私の胸を抉った。『代わり』。天童くんは最初から何もかも知っていて告白してくれた。それでいいって言ってくれた。でも本当にそれでいいの?結局は天童くんを一番傷付けている選択なのではないだろうか。
バスの一番後ろの席に座り、走って行く天童くんの後ろ姿を目で追う。ごめんね、今あなたの温かさを手放せるほど私は強くない。