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優等生と人見知り【幽遊白書】

第5章 図書室


「これ、貸し出しお願いします。」
この学校の図書室では本を借りる人は少ない。上級生達が受験勉強をするために机を占拠していて、自習室としての役割の方が大きかった。
図書の貸し出し受付は図書委員が担っているが、そのような事情から、受付にいても話しかけられることはまずない。置物のように座っていればよく、読書か勉強をしながら時間を潰していた。
だから、珍しいことだ、一体何だろうと思う。声に反応しぱっと顔を上げると、すてきな笑顔を浮かべた南野君が目の前に立っていた。
以前は彼にも見えない光が見えるのか、直接聞いてみたいと思っていた。しかし雨の降る公園での異様な雰囲気はただ事ではなく、不思議な色の瞳は彼の秘密を垣間見た気がした。罪悪感に似たような感情もあり、会いたくないと思っていたのに、今私は話しかけられている。数学の宿題に集中して気づかなかった。私が何とおしゃべりしていたのか、問い詰めにやってきたのか。雨の夜に出会った不思議な空気は、なにごともなかったかのように消え去って、それはそれで怖いと思った。話しかけてくる彼の笑顔を見て、さらに血の気がひいた。
「あ、えっと、ではこちらの、貸出カードに記入をお願いします。」
震える手で、古いけれどまだ綺麗な小さな紙を渡すと、彼は鉛筆を持ちさらさらと名前を書いていく。
「ねえ、毎日受付をしているの?」
南野君は、本を受け取りながら私の耳元に顔を寄せささやく。近い。
びくり、肩を震わせるその様子に南野君は少し驚いた顔をしていたが、くすくすと笑った。
落ち着け。彼は小さな声で話すため、私の近くに来ているだけだ。
みんな、昼休みも忙しいんだって。うるさくしてはいけないから、私も彼の耳元に顔を寄せ答えた。
今週は他学年の委員がそろって補習を受けているため、図書受付の代理を頼まれていた。みんなさぼって来ないことも多いので、代理役は自分に回ることが多かった。
ふうん、と彼は言うと、ちらりと私の数学ノートへ目をやる。彼のまとう雰囲気は優しい。熱で浮かされているのか、最初に感じた恐れはどこかに消え去っていた。あの日疲れて夢をみていたのだろうか。横顔につい見惚れていると、また目があった。彼はにこり、と笑う。顔がかっと熱くなった気がして私は下を向いた。
きっと耳まで赤くなっているに違いない。下を向いて、無言になる。
「お仕事頑張ってね。」
彼の声が耳に残る。
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