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優等生と人見知り【幽遊白書】

第4章 霧雨


勉強場所を転々としながら今は夜の10時。
外に出ると霧のような雨が降っていた。手元には傘がない。仕方なく最短距離を走って帰る道を考える。
建物を出ると丸っこいふわふわしたもの達が寄ってきた。
ちみちみちみちみ……
丸っこいものは耳元でひそひそとお喋りしたり、体に体当たりして戯れてくる。わかったから、はいはい。商店街のアーケードをこえ、公園の中のへ。ふわふわした丸いものの光のおかげで足元が明るい。おかげで少しぬかるんだ道を全力疾走できた。しばらく小道をぬけ開けたところに出るとそこには誰かいる気配がした。
ぴたりと広場の入り口で足を止める。丸いもの達はあっという間にどこかへ隠れてしまう。
街灯もまばらな公園で、月明かりも雲に閉ざされた闇の中では、よほど夜眼のきくものでなければすべてのものを捉えることはできないだろう。
上山那智の目には広間のまんなかに人が、淡い光に包まれていてぼんやりと浮き上がって見えた。道を抜ける瞬間、ふたりの光を見たはずなのに、今目の前にはこちらに背を向け傘をさしている人がひとりだけ。あたりに目を凝らしていると斜め後ろに一瞬だけ人影の光が見えた気がしたがすぐに消えた。なんだったんだろう。
傘をさしている人物がゆっくりと振り返る。

その顔には見覚えがあった。隣のクラスの南野、南野秀一。彼は優秀さと容姿もあいまって学内では有名人であったから、物覚えの悪い私ですら名前を知っていた。
しかしその、学校一の秀才がどうしてここに。こんな夜中に、一人で何をしているのだろう。

今誰かと話してなかった?と南野君が口を開く。静かな声に、どきりとする。
「え、あっ、の…で、電話して、た、だけ、です。」
喉がはりついているようなのは、走っていたから、渇いているから。携帯は濡れないようカバンの中に避難させていたことを気づくことはない。
「そっか。もう遅いから早く帰ったほうがいいよ。危ないしね。」
「あ、そ、そうだね。」
私に話しかけた南野君の瞳は妖しくきらめき、これ以上近づくことを拒んでいるようだった。ここに立ち入ってはいけない。気づくと私は慌てて踵を返し、暗い小道の中を走り出していた。雨で濡れたためか、体は冷えていた。
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