第11章 目眩がするほど
眼鏡を外し、佐久間さんは唇を重ねてきた。
いつもの“お帰りのキス”でも“おやすみのキス”でも“おはようのキス”でもない。
顎を持ち上げられ、激しく舌を差し込まれる。
助手席のシートへと身体を預けていた私はそれに従うほかない。
何度も何度も私の唇を奪っていく。
それはまるで…セックスの時ような“濡れてしまう”淫らなキス。
こんなにも人通りの多い場所で…ましてや亮太の見ている前で…こんなキスをするなんてとは思うが、拒みたいという気持ちは微塵もない。
私はいつも…佐久間さんのキスが欲しい。
ふと、目を開けて亮太の方を見る。
何かを察したような表情を浮かべ、ただ立ち尽くしている。
元カノが他の男性とキスをしている所を見て驚いたのか。
亮太は視線を反らし、こちらへと背を向けた。
信号は再び青へと変わり、立ち止まっていた人々が一斉に歩き出す。
まるで人の波に流されていくかのように、亮太は駅へと向かって歩き出した。
“さうなら。もう二度と会う事のない最低な人。”
そう心でつぶやく。
髪を撫でられ、絡まる唾液。
まるで悪い事をしているかのようなスリル感。
今はただ、ただひたすらに佐久間さんと唇を重ね続けた。