第2章 中編 生贄の彼女と死の外科医
「本当に行くのか?」
ローの居場所を見つけて、出ていく準備を進めている彼女を心配そうにシュライヤは見ていた。
彼女曰く、もうこの船には戻ってこないという事だった。
「はい、本当にありがとうございました。感謝してもしきれないほどよくして頂き、なんとお礼を言えばいいのか」
シュライヤの仲間は皆良い人ばかりで、この1年間穏やかな時間を過ごすことができた。
仲間には女性もいて何かとユーリを気に掛けてくれたので、本当に感謝してもしきれなかった。
「それは俺が勝手にしたことだから気にしなくていい。それより、おまえの心配をだな……」
この1年間何度も聞かされたユーリを心配する言葉。
そんなシュライヤにユーリは苦笑すると、前方に見えた大きな島に目を向けた。
島の端にはここからはっきりと見えないが、ローの船と思われるものを確認できた。
ユーリは大きく深呼吸すると、後ろを振り返りシュライヤに別れの挨拶をした。
「仲間に黙って行って申しわけないです。本当に、今までありがとうございました」
「あいつらも1年と言う期間を知ってるから察するさ。……もしまた何かあればいつでも連絡しろ」
シュライヤはユーリの手に連絡先を渡すと、その手を引き寄せ抱きしめた。
それは好きな女にするというよりも、これからのユーリの身を案じてのものだった。
ユーリはここで命を落とすかもしれない、そんな考えが頭から離れなかった。
だが、もしこの先も生きているのなら
生きのびて行く宛てがないのなら、シュライヤを頼って欲しかったのだ。
「ありがとう」
優しく背を撫でるシュライヤにユーリもそっと抱きしめ返す。
そしてもう一度感謝の気持ちを伝えて、静かに消え去った。
「……死ぬなよ」
消えた腕の中のぬくもりに、シュライヤは辛そうな表情でそう呟いたのだった。