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【イケメン戦国】お気に召すまま【修正完了しました】

第1章 incense







彼の部屋へと続く、長い廊下を、なるべく音を立てないようにひたひたと歩く。
足袋を履いて、すり足で歩くのにもやっと最近慣れてきた。



この時代へ来たばかりの頃――
音を立てて歩くなんて、行儀が悪いよ、なんて彼に叱られたのを懐かしく思い出す程には、もう暫くの時が経っている。





今でもテンションが上がるとついドタバタと駆け抜けてしまう私は、気付かない内にきっと彼の手を煩わしてしまっているのだろう。
…そんな事を考えると、心が沈む。
それでも、折角の光秀さんがくれた機会だ――



彼、家康に作って貰いたい薬があると言う、その一覧をしたためた光秀さんからの書を持って、私は彼の元へ向かっていた。






ここ最近の彼は多忙を極め、城で顔を合わせても挨拶を交わす程度だった。
そんな忙しさも一段落したらしく、今日は久しぶりに城には現れず、御殿でゆっくり静養していると言う。



彼奴の顔を見たいだろう――そう、含む様な笑いを浮かべた光秀さんには、いや、きっと周りの皆には、この思いを知られているに違いなかった。



そんなわかり易い気持ちも、どうしても言葉に出せなくて、持て余す。
だって、家康が言う所の弱くて愚図な私は、彼に嫌われているに違いなくて。
それでも、初めに比べたら随分軟化した家康の態度についつい気を良くして、またこの不毛な思いを、会う度に膨らませて居るのが現状だった。



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