第5章 見知らぬ影
声が聞こえる。
私はなんで寝ていたんだっけ。
意識を失っていた私は、
目を覚ますと見知らぬ部屋の
ベットの上に寝かされていた。
一瞬誘拐を疑ったが、
縛られてもいない。
とりあえず、ここがどこなのか
それを知ろうと私は、
廊下から聞こえる声に
聞き耳を立てた。
「由美は目を覚ました?」
「いえ、まだです。」
「そう。」
女の人と男の人の声、
私は驚きが隠せなかった。
だって、女の人の声は
自分のお母さんの声だったから。
聞き間違いなんてするはずがない。
「本当に悪いと思っているのよ。」
「充分承知しております。」
「あの子、なんて言うかしら…。」
「由美様は、この家の跡取りになるお方でございます。香織様の様に素晴らしい女性になられると思いますよ。」
「あら、お世辞が上手いこと。」
この家の跡取り?香織様?
母の名前に付けられた「様」に
どんな意味があるのかは
私には分からなかったが、
震える足を踏ん張りながら、
部屋の扉を開ける。
「お母さん。」
「あ…由美。」
扉の前には美しいドレスをまとった
見違えるような母の姿があった。