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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱



建物の中に入ると、遊びに来ていた乗馬仲間と挨拶を交わしながら、いつも座る見晴らしのいい場所に案内される。

その場所は馬場が目の前にあって、その奥には赤や黄色に色付きはじめた山々が一望できた。

傍にある暖炉の横には、少しだけ薪が積んであって、もうそんな季節が来るんだってことを感じさせていた。

おれたちは勧められるままに紅茶を飲むと、馬好きの世話人が話すことに相槌を打つ。


やがてそれも少し飽きてきた頃、空になったカップを戻した兄さんがちらりとおれの顔をみて

「そろそろ俺たちも愛馬の顔を見に行こうじゃないか。あそこで待ち草臥れてるようだしね。」

と意味ありげに笑い、話しの止まりそうにない世話人に向かって軽く手を上げた。


「それは失礼致しました。わたくしの話が長う御座いましたね。もう準備は整っておりますので、あちらでお着替え下さいませ。」

そう言って席を立った世話人は、腰低くおれたちをその部屋に案内してくれた。


後ろをついて歩いていた兄さんは、ちょっとおれを振り返ると唇の端を上げて少し笑っている。


あの人‥馬を大事にしてくれるのはいいんだけど、話しばかりを聞かされて、なかなか肝心の馬に乗せてもらえないのが玉に傷だ。


案内された部屋でようやく乗馬服に着替えたおれたちは馬場に出て、それぞれの愛馬の躯体を撫でてやる。


「2頭とも元気そうでよかった。しばらく来てなかったから、気になってたんです。」

「そうだな‥翔の馬はまだ大人しいけど、俺のは少し気性が激しいへそ曲がりだからな。拗ねたこいつに振り落とされないようにしないとな。」


そう言いながら鐙(あぶみ)に足を掛けた兄さんは、ひらりと褐色の愛馬に跨った。



‥さすがだな‥。


手綱を引いて足踏みをさせながら、おれが馬に乗るのを待ってくれる。


「久しぶりだから、気をつけろよ。」

少し揶揄うような視線を感じながら、同じように鐙に足を掛けると、地面を蹴り弾みをつけ白馬に跨がる。


それを見た兄さんは満足そうに笑って手綱を緩めると、馬場の中へ愛馬を駆った。


青く高い空の下、引き締まった褐色の躯体を颯爽と操る美丈夫な兄を遠目に見て、おれもああなりたいと思う。


「おれたちも頑張ろうな。」

白く滑らかな躯体を撫でてやると喜んだように嘶いた白馬の手綱を少し緩めて、軽く腹を蹴った。
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