愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
翔side
赤茶色の煉瓦造の門をくぐって小道を歩いていくと、丁度、厩舎から2頭の馬が馬場に引かれていくのが見える。
「兄さんと此処に来るのは久しぶりですね。」
おれは隣りに悠然と構える兄の横顔に微笑みかけた。
西洋人のような彫りの深い目元は、凛々しく時に優しく、おれを見つめ返してくれる。
心地よい秋風が吹いてきて、尊敬する兄の漆黒の髪をなびかせた。
「此の所、何かと忙しくて、お前との時間を作ってやれなかったのは悪いと思ってるよ。」
こちらに顔を向けて優しげに言った兄さんは、大きな手でおれの頭を撫でた。
普段は学問に追われるおれをこうして息抜きに連れ出して、一人前の男としての嗜みを教えようとしてくれる兄の気遣いが嬉しかった。
幼い頃から歳の離れたおれを可愛がってくれる兄さん。
おれはそんな兄さんが大好きだった。
「そんなことない‥だって兄さんは長子としてやらなければいけない事が沢山あるから。お父様だって、いつもそうおっしゃってるもの。」
頭を撫でてもらうと、幼い頃に戻ったような感覚になって、頼りがいのある存在に甘えてしまいそうになる。
それは癖みたいなもので、ずっとそうやって過ごしてきたから。
厳しい父親がおれを叱責するたびに、兄さんは庇ってくれて‥慰めてくれて‥
「そんな事はないさ。あの人がどう言っているかは知らないが、俺には俺の流儀がある。上手いことやっているんだから、お前は心配しなくていい。」
「ありがとう兄さん。おれは頼りになる兄を持てて幸せだね。同級生はみんな潤兄さんのことを素敵だって言ってくれるんだ。」
おれはそんな兄さんの背中をずっと追いかけてきた。
行く先には小さい頃、よく躓いていた大きな段差があって、それを見つけた兄さんはおれを振り返って、優雅に片手を差し出す。
「‥子供じゃ無いんだから、一人で降りられるよ。」
おれが子供扱いされたことに口を尖らすと
「たまにはいいじゃないか。久しぶりで俺も楽しいのさ。」
愉快そうに笑うから、それにつられるように、差し出された手に自分のそれを乗せた。
久しぶりに触れた兄の手は、とても逞しく感じた。