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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第8章 在邇求遠



おれは秋の終わり頃から屋根裏で物音がしていたこと、少し前に兄さんの部屋に忍びこんで隠し部屋を見つけて‥鎖で繋がれた人を見つけたことを話した。

そしてその人にもう一度会いたいと‥あの部屋から連れ出したいんだと、必死になって話した。


「あんな暗くて‥寒い所に鎖で人を繋いでいるなんて、兄さんは狂ってる‥。智は‥泣いてたんだ。ずっと‥酷い仕打ちを受けてたんだと思う。」

話しているうちに、自然と視線はおれたちを隔てる白い壁の方を向き、智のことを思い出し涙が溢れそうになった。


だけど

「智さん‥まさか、そんなところに‥囚われてたなんて‥。」

愕然としたような和也の言葉に驚いて振り返ると、両手で口を押さえて壁を見つめる彼の目にも涙が溜まっていて。


「どういうこと‥?彼を、智を知ってるの⁈ね、教えて!」

訳が分からない‥

何で和也が智のことを知ってるの?

おれは震えている小さな肩を掴んで、強く揺さぶる。


「‥私も、智さんを探してたんです‥、だけど見つけられなくて‥」

「知り合いなの‥?」

「はい‥元の主人、なんです‥。」

和也の口から語られる話は、俄かには信じがたく‥

「主人って‥‥」

聞き返すおれの声まで震えてしまう。

「私が幼い頃からお仕えしていた侯爵家の‥最後のお一人でした。」


‥‥え‥

智が‥‥貴族‥だった‥‥?


「今は無き大野家の‥跡取り、だったんです‥。」

そう悔しそうに唇を噛んでいる和也の肩を掴んでいた手から、少しずつ力が抜けていく。


侯爵家の跡取り‥

それがどれほど重い身分かは、おれでも分かる。


「そんな人が何で‥あんなところに‥。」

茫然となったおれの力無い問いに、彼は黙って首を横に振る。

「‥‥言えません、それだけは‥お許し下さい‥。でも、智さんを助けたい‥。」

和也は袖口で目元を拭うと、顔を上げて

「考えましょう‥二人で。きっと何か方法が見つかるはずです。」

力強い瞳でおれを見つめ返してくれる。


「‥兄さんの部屋には、鍵が掛けられてる。たぶんその鍵は澤が持ってる。」

「わかりました‥‥私が何とか手に入れてみせます。」

おれたちは絶対に智を助けだそうと‥誓い合った。




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