愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第8章 在邇求遠
高ぶった神経が程よい酔いで凪いでくるのを感じ、仄かな月明かりも視界から消えようかという頃、静かだった部屋に響いた物音に再び目を開ける。
‥‥来たか。
部屋の奥から扉を開ける小さな音がしたかと思うと、そのまま躊躇いも無く素足で床を歩く音がして、寝台の横で止まる。
「何をしに来た‥こんな夜更けに。」
長襦袢の上に羽織を肩に掛けた智は、窓から注ぐ青白い月光を纏いながら、そこに立っていた。
その者はそこにいることを喜ぶでもなく、悲しむでもない‥ただ静かに俺を見下ろしている。
「潤様の傍にいては‥いけませんか‥?」
仄暗いなかでもひと際目を引く艶めいた唇が、愛の続きを囁くように動いた。
本当に退屈しない男だな‥
「‥好きにしろ。」
気の無い俺の返事でも構わないと思ったのか、智は肩に掛けていた羽織を脱ぐと、掛け布団の端から冷えた身体を滑り込ませてきた。
途端、温まりかけていたそれが温度を下げたにも関わらず、冷えた身体には心地よかったのか、
「あたたかい‥」
そう洩らしたかと思うと、身動ぐ気配がして、冷たい指先が俺の手を探し当てる。
細い指先はゆっくりと俺の手を撫でると、それを自分の懐へと導き、
「もっと‥温めて下さいませんか‥」
吐息に艶を含ませた。
慣れたもんだな‥。
そうやって身体を温めあうことしか知らないなら‥
「さっきのでは足りなかったと‥?そんなに男に抱かれたいのか。」
「いえ‥僕が抱かれたいのは潤様だけ。潤様だけを‥愛して‥‥っんんっ」
俺は退屈な言葉を吐く唇を塞ぐと、逃れられないよう頸を押さえつけ咥内を蹂躙するかのように深く口づけた。
御託はいい‥
お前は‥俺に抱かれ愛されてると思えるのなら、こんな容易いことは無い。
俺はお前を抱く。
抱いて‥‥お前の全てを奪ってやろう。
そして思い知るがいい。
自分のしていることがいかに愚かであるか、何の価値もないことだったのかということを‥。
その時には既に手遅れだろうがな。
深く口づけられながら冷たい指先が俺の腰紐を解き、俺は躊躇いなく智の襦袢の襟を裂く。
智はふるりと身体を震わせた。