第14章 『可愛い』
「あ、あの!実は宗介さんが・・・むぐっ!」
パッと俺のジャージから手を離し、凛達の方へ行こうとするヒカリ。慌てて、後ろからヒカリの口を手で塞いだ。
「・・・お前、何言おうとしてんだ」
「え、宗介さんが可愛・・んぐ!」
「言 う な !」
小声で聞くと、ヒカリはさも当然という顔で言ってのけようとするので、慌ててもう一度口を押さえた。
「つか、何更にイチャついてんだよ」
「ばっ・・・イチャついてねえよ!」
凛が呆れ顔で俺達を見ている。
いや、ちげーよ。見ようによっては、後ろから抱きしめてるように見えるかもしんねえけど、こっちは困ってるんだよ!
「よーし!これは写真撮っとくしかないね!百ちゃん、江ちゃんとこいってデジカメ借りてきて!」
「ほいきた、渚っちー!」
「お、おい!」
葉月のとんでもない提案に対し、フットワークも軽く百が走り出す。
息ピッタリだな、お前ら。てか、プールサイド走んな!
・・・手を離せばヒカリがさっきのこと話しちまうし、このままだとイチャついてると思われて写真まで撮られちまうし・・・一体俺はどうすればいいんだよ・・・!
「んん~!」
その時、ヒカリが何か言いたげに俺のジャージを引っ張った。少しだけ手を離す。
「・・・なんだよ」
「宗介さん、あのね・・・今日の夜、電話でもう一回『可愛い』って言ってくれたら、凛さん達にはないしょにしといてあげます」
小さな声でそう言うと、ヒカリはいたずらっぽく笑ってみせる。
「ぐ・・・・・・わかった・・・・」
こいつ、人の弱みに付け込んで調子に乗りやがって・・・と思ったが、今はヒカリの提案を受け入れるしかない。
俺は渋々頷いて、ヒカリから手を離した。
「やった!ふふふ、楽しみです!」
なんて言いながら、今度は無邪気に笑ってみせるヒカリ。こんな時さえ、こいつの笑った顔が可愛いと思っちまうなんて。
腹が立つけど、俺はこいつに一生敵わないんだろうな、と思った。