第2章 ジンベエザメの試練
少しずつ、少しずつ俺とヒカリの顔が近付いていく。唇が触れ合うまであと10センチほど・・・だったろうか。
その時・・・下の階でドアが開き、バタバタと人が駆け込んでくる音がした。
「・・・あ!お母さん帰ってきたみたい。どうしたんだろ?ちょっと行ってきます!」
パッと立ち上がると、ヒカリは部屋を出て行ってしまった。
残された俺は・・・
「・・・・・・・・・マジかよ」
もう何度目になるかわからない『マジかよ』を呟いたのだった。
少し時間をかけてなんとか自分を落ち着かせると、俺はヒカリの部屋を出て、階段を降りた。ヒカリの母親がいるなら、挨拶しておこうと思ったからだ。だが、降りている途中でヒカリが下からやって来た。
「あ、宗介さん。どうしました?」
「いや、お袋さんに挨拶しとこうかと思ってな」
「あ、すいません。お母さん、忘れ物取りに来ただけみたいで、すぐに仕事戻っちゃいました」
「そうか・・・・・・ならいい」
だったらもう少しタイミング考えて帰って来てくれよ、と思ったことは永遠に俺の心の中だけにしまっておくことにした。
まあ・・・でもこれでよかったのかもしれない・・・・・・多分。
「さ、あと少しだし、頑張るぞ!部屋、戻りましょ、宗介さん」
意気揚々と部屋に戻ろうとするヒカリ。
だけど、俺は・・・・・・
「・・・ヒカリ、場所変えねえか?ファミレス、行かねえ?」
「あ、お腹空いたんなら私何か作りますよ。私もちょっとお腹空いたし。宗介さん、何が「いや、頼むから。何でも食わせてやるから・・・俺がもう限界だ」
「・・・宗介さん?」
何もわかってなさそうな顔で、俺を見つめてくるヒカリ。先は長そうだな、と俺は心の底から思った。