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妖狐の籠

第1章 狐


「狐珀!おはよう!今日は何して遊ぶの?」


いつものように千夏の元へ行く

出逢ってからほんの少しだけ時が過ぎ

千夏はもう7つと言っていた


「今日はね、小さい川に行きたいんだ
ほら!行くよ!」


嬉しそうに目を細める千夏と手を繋ぐ

千夏の手はとても小さく柔らかい


「ねぇ見てよ狐珀!お魚いっぱいいるの!」


山の中の川に着くと無邪気に遊ぶ千夏

水の煌めきと弾けた笑顔を

我はずっと見ている


いつもは山の中の立派な祠に独りで過ごす

だから山の中の小さな川など見飽きたものの

千夏と共にいればこんなにも違う




刹那、妖気を感じ取る

空を見上げれば

見覚えのある黒き者が飛んでいる

千夏が夢中になっている事を確認し

我はそっと、その場から離れて

いつもの祠に向かう



「狐珀だろう 元に戻れ」


先程、空を飛んでいた黒き者は

祠の前に佇んでいる

その黒き者は千夏と同じ黒髪で

背中には大きく立派な黒き羽

鋭い目つきは生まれつきという


「右烏(ゆう)、何故ここに来た」


彼は同じ妖怪の『烏』の族


「人間に惚れた『狐』がいるという噂は真か」


「我に聞いても答えられぬ
長い間、独りでここにいるからして
我が族と共に生活をしていない」


「そうか、それは残念だ
なら先程、川にいた少女はなんだ」


「あれは後々喰らう」


もちろん喰らう予定などない


「『狐』が『人』を喰らうなど
聞いたことないな」


右烏と我の間に沈黙が流れる

そよ風が吹き、我の長い髪が揺れる


「いいか、俺は狐珀に忠告しに来た
妖怪の則(のり)を忘れるんじゃない」


「そんな事わかっておる」


「俺ら妖怪は『人』と接することなく
皆、そうやって生きてきた
このままだと天狗様が…」


「黙れ」


刹那にして、右烏を化猫に変える

『狐』の族は魔力が使える


「わかっておる…
わかっておるから…」


後には元に戻る化猫の右烏を残して

我は小さな川に向う
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