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外科医・牛島若利

第2章 勧誘


全ての説明を受け、次のカンファレンスまで読んでおくように言われた資料を受け取って木兎先生の部屋を出る。

つい、隣の牛島先生の部屋の扉を見るが「空室」のカードが見えるだけだった。

カーディガンを羽織り、詰所へ向かう。
途中、赤葦さんと同じく放射線技師をしている天童さんと麻酔科医の白布先生に出会った。
2人は牛島先生のチームの一員だ。もちろん他の仕事もしているわけではあるが…。

「あら、羽音ちゃん久しぶり~」

陽気な天童さんは、病院でも人気がある。
腕前も一流であり、赤葦さんと人気を二分しているだろう。
小さく頭を下げると、隣にいた白布先生もにこやかに手を上げてくれた。

「今日は、日勤?オペ入らないの?」
「ちょっと、木兎先生に呼ばれて…」
「ほうほうほう…」

食いついてきたのは天童さんだった。

「来週のオペ入るの?あれ、いい物件だよね」

物件って…。

「心臓なのが惜しい」

木兎先生のパートナーは赤葦さんが常に務めている、天童さんに入る隙はないという事だ…その逆もまた然りではある。

「私は、牛島先生のオペに入れる天童さんの方が羨ましいです」
「えっ?のろけ、それ?」
「違いますっ!!」

やけに絡んでくる天童さんを呆れた顔で見ている白布先生は、時計をチラリと見やると『もう行く』と言って、先を急いだ。
慌てて天童さんも後を追っていったが、なんとも騒がしい人だと、いつも思う。

詰所に戻れば、もちろん私がチーム木兎に入ったことは皆の知るところで、色々と尋ねられた。
チーム牛島に同期で配属されている山形君からは祝福の缶ジュースまで頂いてしまった。

何とも複雑な気分ではあるが、自分のスキルアップにはもったいないくらいの話で、私情は挟まずに頑張ろうと午後の仕事に就いた。

担当オペの片づけをしていると、向かいから歩いてくるのは牛島先生とその取り巻き…もとい瀬見先生と五色先生だ。

「お疲れ様です」

と声を掛けると、2人に先に出る様に言った牛島先生は私の元へ寄ってきた。

「今夜予定はあるか?」
「…いえ」
「食事にでもいかないか?」

突然の誘いに胸が高鳴る。
いつも忙しい牛島先生とディナーに行けるなんて、今日はいい日だと心の中で唱えた。
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