第32章 ep32 意味
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インターフォンを鳴らして玄関から出てきたりこは、及川の汗だくな姿を見て、僅かに目を丸くした。
「走って、きたの・・・?」
「うん」
「別に、約束したんだし、どっか行ったりしないよ」
「一秒でも早く、会いたかったから」
りこは、ふっと目をそらし、それから入って・・・と家に招き入れた。
何度もお邪魔したりこの家。
彼女の部屋に入れば、柔らかな彼女の匂いと、クーラーの涼しい風に包まれた。
ふうっと息をつき、妙に緊張している胸をそっと抑える。
暫くして、冷たい飲み物をお盆にのせたりこが部屋に入ってきた。
はい、とそれを手渡し、タンスの中からタオルを取り出しそれも及川に渡す。
「着替える・・・?」
「いや、大丈夫。さすがにりこの服とか入らないだろうし」
やんわりと親切を断り、及川は渡されたコップの中身を一気に飲み干す。冷たいジュースはカラカラの喉を癒してくれた。
「美味しい・・・」
無意識にそう呟くと、りこはふっと笑った気配がした。
及川はいつもりこのベッドの隅に腰掛ける。いつもならその隣に彼女は座ってくれるが、今日は勉強机の椅子に、腰掛けていた。
「面接と筆記、大丈夫だった?」
「うん、ばっちし、って言いたい所だけど・・・どうだろう?いつも自信満々で出して、後でガッカリするからなぁ」
「でも、まぁ形だけのテストなんだし、大丈夫なんじゃない?」
苦笑するりこ。
こんな他愛ない会話は久しぶりで、それだけで心が満たされる感覚がある。
「ねぇ、話って・・・なに?」
椅子の上で片膝を抱えるりこは真っ直ぐに及川を見つめる。
及川はもう1度ゆっくり息をした後に、話し始めたーーー・・・