第4章 迷夢…
その日以来、僕は智子との距離を置くことにした。
智子の涙を見てしまったことへの気まずさは勿論だけれど、それよりも何よりも、僕自身が智子に触れることが怖かったんだ。
一度智子に触れてしまったら、今度はどうしたってこの気持ちを抑えられなくなりそうで、怖かった…
智子もそんな僕の気持ちを感じ取っているのか、それまでのように僕に甘えてくることはなかった。
寧ろ避けられているのかもしれない。
だって僕とは視線すら合わせようとはしないのだから…
でもそれでいいんだ…
僕達はどれだけ想いあった所で、決して結ばれることはないのだから…
これでいいんだ…
諦めにも似た感情を抱えたまま、僕はただひたすらに空虚な時を過ごしていた。
そんな折り、大学の休暇を利用して帰省していた潤から、一通の電報が届いた。
電報には、智子との婚約を正式に受理するといった内容の文言が書かれていて、それを見た父様は手を叩いて喜んだ。
あれ程潤に対して難色を示していた母様ですら、父様の決定には逆らえないと判断したのか、渋々ながらも、智子の婚約を受け入れた。
でも当の智子はと言うと、父様や母様の前では無邪気に喜びを現していたが、その目はどこか寂しげで…
時折僕を見ては、瞳の奥を大きく揺らし、哀しく微笑んで見せた。
僕は智子の笑顔を見る度、胸が激しく痛み、そして苦しくなるのを感じていた。