第37章 【我儘王子】×【真面目女執事】
「おかえりなさい。」
帰ってきた王子を見ると、王子は疲れ切った顔をしていた。
目が合うと、少しだけ嬉しそうに笑う。
「…ただいま。」
そんな王子を見て、少しドキッとした。
「あの約束、忘れてないから。」
小さく私にそう言うと、王子はすぐにお風呂へ向かった。
「姫と会って、どうでしたか?」
何気なくそう聞くと、王子は拗ねた顔をして言った。
「そんなの、どうでもいい。」
「…そうですか。」
拗ねる王子は、どこか少しだけ可愛く見えた。
「さて、夜も遅いですし、もう―」
寝ましょう。と言おうとした所で、王子に腕を掴まれる。
「…蒼依様?」
「言っただろ、約束の事忘れてないって。」
そういった王子の目は、さっきとは違う。
「俺は、雨衣が欲しい。」
王子の口から出た言葉は、私にとって とても大きなワガママだった。
「それは…聞けません。」
「なんで。」
このやり取りは、2回目だ。でもこれは、この間のように簡単に引き下がる訳には行かない。
「私と貴方は、王子とその執事であって、それ以下でもそれ以上でもありません。」
「ですから聞けません。」
そう言うと、王子は私の目を見て言った。
「じゃあ、」
「はい?」
「―雨衣の気持ちは、どうなの。」
「私…ですか。」
「執事としてじゃなくて。」
そんな事を聞かれたのは、初めてだった。
だから、言葉が出ない。
「私の気持ちを言ってしまったら、もう戻れません。」
きっと、私の気持ちを話してしまったら、本当に何もかも変わってしまうから。
そんなの、王子にとっても良いわけがない。
…はずなのに、
「戻れなくていい。それくらいの覚悟も無しに、俺は欲しいなんて言わない。」
いつもと違って力強い王子の目が、私を見据える。