第1章 start
「よう、沙雪」
『あー、川西』
廊下側の窓から顔を出したのは、いつも通りの川西だった。暑いのか、袖を腕まくりしていて白布より筋肉質だよなぁとかどうでもいいことを考える。
「賢二郎、今日の練習18時半から。大学生が来るの遅くなるらしい」
「また、微妙な時間だな」
白鳥沢は、県内トップでもちろん練習相手も強くないといけない。最近は、もっぱら大学生相手だと言うし忙しそうだなぁとメンバーじゃなくても感じる。
「微妙だし、どうせなら久しぶりに沙雪も連れて、ファミレス行こうぜ」
『行きたい。ドリア食べたい。あと、ハンバーグ』
「はいはい、行きましょう行きましょう」
面倒くさそうにしているが、久しぶりにご飯だから白布も嬉しがっているのは何となく分かる。きっと、脳内では既に何を食べるか会議中であろう。
「あと、コイツ。勉強会に混ざりたいって」
「え、どうして突然。何で?」
「五色に会いたいんだとよ」
『工くんに勉強教えたい』
「あー、まぁあの馬鹿に教えてくれる要員がいるのは助かる。俺も賢二郎に教えてもらうし」
「いやいやいやいやいや、太一。止めろよ」
「んでだよ」
白布の口から小さな音で、テンドウさんと聞こえた。天堂じゃなくて、天童先輩の方。
「あ、あ、あ、なるほどね。あーーー」
誤魔化すような、悩んでいるような表情で川西が唸る。
「新しい玩具が増えた。ヤッフーーぐらいにしかならないだろ」
「だといいんだけど」
まだ会ってもいないのに、疲れた顔をしている。そんなにいう天童先輩とはどれくらいの人なのか。
『白布と川西がいれば大丈夫だよ。よく分からないけど。どんな人なの?』
「「掴みどころがない」」
『ふーん』
「一応、言ってくとあの人もモテるからな。俺ぐらい」
『川西ぐらいかぁ』
「もうちょい反応して。傷つく」
『えぇ!! ちょっと中途半端じゃない!?』
「大げさにそんな中途半端とか言わなくて良いから」