第1章 幸いなことに、今宵は月夜で
「とわ…」
「なあに、薬研?」
「俺はまだこんなだから…。だから"愛してる"ってぇのがどれくらい大きな想いかわからない……」
「うん」
「でも…、とわが俺の生きる理由なんだ」
「うん」
「大将の為に、とわの為に…。俺は生きて笑うんだ」
「うん」
「とわが…、すげえ好き、だから……」
「うん」
「気付けば姿を探して、何もないのに声が聞きたくて、いつでも傍に居たくて…。心から…、心からとわが欲しくて堪らないんだ…」
そう言ってほんの少し彼女に笑いかければ。
とわは大きな瞳を熱っぽく潤ませ、俺に極上の笑みを返した。
だから俺は、あまりにもいとしすぎるそんな彼女に。
この胸に在るだけの思い全てが。
この心に在る想い全てが。
どうか一つ残らず届くようにと祈りを込めて。
彼女の体を引き寄せきつく抱きしめながら、月から零れた涙よりも優しく、その煌めきよりも切ない口づけをそっと落とした。