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短編集 ~切甘中心~

第5章 溺れる人魚


 コポリ、ゴポリ。


 肺から最期の息が漏れた。


 直感的に自分が泳ぐことの出来ない人魚なのだと思った。


 どれだけもがいても、夜の空を飾る月から遠ざかるだけで。


 “死ぬ”のだと思った。


 このまま誰の目にも触れず、ただ独りで、ひっそりと。


 死にたくない、


 けれど、もう、苦しみたくない。


 誰か逢いたい人がいた気がするけれど、思い出せない。


 ああ、誰か。


 私を、タスケテーーー。









「ーーーーーーあ、」


「どうした?」


「何でもないの、多分…」


 目を覚ませば、隣には彼がいた。


 アキトの細い指が私の頬をなぞる。


「ヤな夢でも見た?」


 ほら、と拭った指を見せてきた。


「泣いてるけど」


「ほんとだ…」


 どんな夢を見たのか、もうあまり覚えていない。


 でも、何故か悲しかった。


「大丈夫。俺がいるよ」


「うん……っ」


 君がいる、側に居てくれる。


 そんな些細なことに心がほんわかと暖かくなる。


「ねぇ」


「ん?」


「好き」


 私がはにかみながら笑えば、アキトも笑った。


「俺も好きだよ」




 今日も幸せな日になりそうだ。
 
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