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ブラック本丸に舞い降りた異形の神

第1章 三日月宗近の祈り


アキラが俺の顔を覗き込む。
「心に付いた傷は、体に付いた傷とは違います。体に付いた傷は治りますが、心に付いた傷はそう簡単に癒えるものではありません。」
顔を上げるとアキラは俺の両の手を掴んで向かい合う。
人間とは存外難しい生き物なんですと笑うアキラにつられて顔が緩んだ。
「そうだな…そうであった。」
アキラと話していると心の蟠りがとけていく。
こんな風に気持ちが穏やかになったのはいつ振りであろうか。
仄かに暖かくなる心に笑みが溢れる。
「鶴を迎えに行こう。他にも迎えに行かねばならんからな。」
アキラの左手を離しアキラの右手は繋いだままで歩き出す。
手を離せば今が幻影と消えてしまいそうで、この神に触れたままでいたかった。アキラの周囲の空気はとても心地良い。俺はまだ出会って間もないアキラに心臓が高鳴っていた。

枝垂れ桜から離れ中庭を通り過ぎ本丸から目と鼻の先にある離れの別邸へとやって来る。
幾らアキラに大丈夫と言われても、やはり足は重いな。
別邸の玄関の引き戸を開けようと近付く前に白い塊が飛び出して来た。
咄嗟にアキラと繋いでいた手を自分の方に引いて腕の中にアキラを閉じ込める。
勢い良く飛び出してきた白い塊は地面に転がって木の幹にぶつかって止まった。
「イテテ…」
「鶴?」
「三日月?君なのか?」
白い塊は鶴であったか。
鶴は勢い良く立ち上がると俺の両の肩を掴み、息がかかるほど顔を近づける。
「無事だったんだな⁈ 」
俺の頭から足先まで確認するとハッとしたように話しを変えた。
「不思議な事が起きたんだ! 君も気付いてると思うが急に刀本体が手入れされたように直った。それに俺は刀に戻っていた筈なんだが…」
鶴は俺の肩を未だに掴んだまま現状を把握しようとしている。
そろそろ種明かしをしてやろうと腕の中に隠したアキラを解放… と思うたが、袖影からアキラを出してやると目を回しておった。
「あなや。」
袖影からアキラを出してやると鶴が直ぐに気付く。
「こりゃ驚いた。 君から神気を強く感じると思ったが」
鶴が驚いている間にアキラを横抱きにする。
「こやつはアキラという神様だ。俺達を助けに来てくれた。」
「……神様。 確かにこの神気は人の子ではないな。」
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