第6章 甘い香り
暗くなり、映画が始まる。正直あんまり興味のないタイトルで寝ちまおうかとも思ったが、後で色々話をふられた時に寝てたなんて言ったら面倒なことになりそうだ。俺はぼんやりとではあるがスクリーンに集中することにした。
だが・・・そんな俺の集中をさっきから乱す奴がいる。
「おい、何もぞもぞしてんだ」
「だ、だって・・・」
俺の隣にいるいちごは、小さな身体を更に小さく縮こまらせている。だが、そもそも席自体が狭いので俺とはかなり密着している。
「おとなしくしてろって」
「で、でも、あの・・・せ、狭いんですけど・・・」
「しょうがねえだろ。元々そういう座席なんだから」
いちごがずっともぞもぞしてるから、触れ合った部分がむず痒くて仕方ない。何より落ち着いて映画が観れない。
「そ、それはそうですけど・・・そ、そっちが大きすぎなのがいけないんでしょ」
「お前がちっこいんだから、ちょうどいいだろ」
「ちょ、ちょうどよくない!」
・・・ホントにこいつはいつもぴーぴーうるせえな。ずっとこの調子だとうるさくて仕方ないし、まどろっこしいのは嫌いだ。
「うっせーな・・・ならこれでいいだろ・・・よっと」
「きゃっ!な、ちょ、ちょっと!!」
俺はいちごの身体を抱き上げると、自分の脚の間に入れた。これなら狭い狭い騒ぐこともないはずだ。
「これで狭くねえだろ?」
「や、あの、、確かにさっきよりは広くなったけど、こ、これって・・・」
「うるせえよ。周りに迷惑だろ?」
「へ?あ、す、すいません・・・」
周りから咎めるような視線を向けられて、やっといちごは口を閉じた。よし、これで映画に集中できる。