第5章 アネモネとキス。2
カーテンの隙間から月の光が零れる深夜。背中に鈍い衝撃を感じて目を覚ました。勝手に部屋に入り込みベッドに倒れ込んだ人物は既にすやすやと気持ち良さそうな寝息を立てている。
もう何度目だろうか。毎晩ではないもののあまりの頻度にすっかり慣れてしまった温もりと寝息はむしろ心地よくも感じる。
初めて来たのはいつの日だったか。出来心で寝ている彼にキスをしようとして、しかし実は彼は起きてて、それで。
その次の日の夜から来るようになった。気がする。
長く想いを寄せていた彼と一緒に寝ていることが夢ではないかと何度も思ったけれど、起きた時に残ったままの温もりが現実を叩き付け、起きて早々ときめきで悶えてしまう。しかし起きた時にはいなくなっているのが少し寂しくもあったり。
布団に残り香が付いている度に邪な感情が芽生える自分に嫌気が差す。彼にそういうつもりはないのに。期待してしまう自分が嫌だ。彼がいたところに同じように寝転んでみるとまるで包まれているような感覚がして。
はっと我に返り起き上がる。早く身支度を済ませてみんなのお弁当や朝ご飯を用意しないといけないのに。残り香に名残惜しみながら部屋を出た。