第4章 風邪を引いた日のとある日常。
身支度を済ませたものの、家事をしようとするたびに病み上がりだからと止められ何もせずにお昼が過ぎてしまった。談話室でぼんやりとしながら過ごしていると背後から緩く抱きしめられ、驚いて見上げると微笑を浮かべた紬さんが立っていた。
「退屈そうですね」
「あー…そうですね」
「じゃあ俺と気分転換でもどうですか?」
「、え」
「病み上がりなのでお散歩がてら、デートでも」
デート、という言葉に昨日のことをはっきりと思い出し、ぶわっと顔に熱が集まると頬が紅潮していたのか紬さんがくすくすと笑っていた。差し出された手を握って立ち上がるとエスコートするように玄関まで手を引かれ、靴を履くと再び紬さんに手を握られて寮を出た。
手の平に感じる紬さんの温もりと、名前を呼べば振り返って笑顔を向けてくれる喜びと。少し不謹慎だと言われてしまうかも知れないけど、たまには風邪を引くのも悪くないと思ってしまった。
了。