第4章 風邪を引いた日のとある日常。
起きてすぐに体が不調を訴えた。咳や鼻水は出ないもののどうやら熱があるらしく頭がぼんやりして時折眩暈もする。しかし今日から二日間春組と夏組の合同合宿があり、それに監督さんもついていくと言っていた。だから寮に残る秋組と冬組のお世話をしないといけないので寝込んでいる場合ではない。ふらつく体をなんとか奮い立たせ身支度をしようと談話室へと向かった。
「あ、あれ、」
確か合宿組は朝早くから寮を出るはずなのに、談話室には人影がなかった。もしかして、と時計を見ると出発時間はすでに過ぎていてやってしまったと頭を抱える。すると背後のドアが開き誉さんが顔を出した。
「おや、今日は珍しく寝坊したようだね」
「あ、誉さん。すみません、目覚ましに気付かなくて…」
「気にすることはない。たまにはゆっくり休んでくれと誰も起こさなかったんだ」
稽古着に身を包んだ誉さんが僅かに目を見開いて私を見下ろした。そして慌てて頭を下げる私ににっこりと笑顔を浮かべ私の頭をぽんぽんと撫でる。しかし下げた頭の勢いが強すぎて頭を上げた瞬間に眩暈で体がふらつき、誉さんの方へ倒れ込んでしまった。咄嗟に体を支えてくれた誉さんが動揺して声を荒げる。
「どうしたんだいはるくん!すごい熱じゃないか!」
誉さんの声につられるようにたくさんの足音が聞こえてきたけれど、私の意識は深く沈んでいった。意識を失う直前、いつもの余裕や自信に溢れた顔からそれらが消え、焦りが滲んだ表情で私を抱き上げる誉さんの姿を見た。