第3章 ユリと本音。
ぴく、と肩が跳ねる。状況が呑み込めず幸くんを見たまま固まっていると肩を震わせて笑う幸くんが私に顔を近付けた。目と鼻の先にある幸くんの唇がゆっくりと動く。
「あれだけで不機嫌になるオレはまだまだ子供だって自覚出来たし、」
「…」
「意識されてないならこれからさせればいいだけだし、」
「ゆ、きくん、?」
「オレがまだ中学生だからって油断してるとそのうち痛い目見るよ」
そう言った幸くんはこの寮にいる大人たちと大して変わらないような大人びた笑みを浮かべ私の頬にひとつキスをした。びくりと肩を震わせる私を見た幸くんが楽しそうに笑う。耳元に唇が近付き、いつもとは違う低い男の子の声が鼓膜を撫でた。
「いつか絶対惚れさせてみせるから」
「っ」
「もう子供なんて言わせないよ」
再び頬に感じた柔らかい感触の後、幸くんは楽しそうな笑い声を残して部屋を出て行った。一人になった部屋で、頬を押さえながらずるずると崩れ落ちる。顔に集まる熱と速く脈打つ鼓動。頭の中が幸くんでいっぱいになって頭を抱えた。
「…これ、犯罪にならないよね…」
自分と幸くんの年の差を思い出して、しかし後には引けない胸の高鳴りに吐き出した息は熱く、ゆらりと空気中に溶けていった。
了。